異世界冒険者ギルドの日常 – 第10章:後編

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 世界樹祭は正午、鐘の音とともに始まった。

 湖面に渡した浮き桟橋の上を、各国支部の代表行列が色鮮やかな旗を掲げて進む。つい数刻前まで騒然としていた決算監査場は、嘘のように祝祭のざわめきへ塗り替えられていた。

 ユウトは祭壇脇の管制台で、臨時監査員用の水晶端末を握りながら空を見上げた。――巨大な世界樹の頂が柔らかな緑を揺らし、さざ波のような“収支ログ”を送り返している。数分おきに更新される魔力グラフはすべて正常値。

 「黒字でも赤字でもない。まるで“収支トントン”の心音だ」

 完璧過ぎる水平線を見て、思わず笑みがこぼれた。