政府系研究所の白い廊下を抜けると、厳重なセキュリティドアが並ぶエリアが現れる。その先にあるのは、ビアンカが指揮を執る実験室だ。無機質な照明が床と壁を照らし、廊下は消毒液や薬品の混ざり合った独特の匂いに満ちている。表向きは医療研究や新素材開発を行う施設という触れ込みだが、その地下区画で進められているのは、極めて機密性の高い“意識共有”の実験であった。
扉が開くと、広い空間の中央に設置されたガラス張りのルームが目に入る。そこには数名の被験者が横たわるように配置され、それぞれの頭部には脳内チップと接続するための特殊なヘッドギアが装着されていた。脳波や心拍数をモニタリングする端末が周囲に並び、研究員たちが忙しなく計測データをチェックしている。
「はい、3番と5番の被験者のリンクを強めます。シナプス接続量を10%上げてください」
ビアンカの指示を受け、操作パネルを担当する研究員が素早く設定を変更する。すると、被験者たちのモニターに映し出された脳波パターンが一斉に変化を始めた。
「……あ……ああ……」
声を上げたのは若い男性被験者。ヘッドギアの下で額から汗が滲み、瞳には戸惑いと恍惚が入り交じったような色が浮かんでいる。隣のベッドに横たわる女性被験者と、まるで同じ感覚を共有しているかのように、ぴたりと呼吸のリズムが合わさる。瞬間、互いの記憶や感覚が交差するかのような“熱”が空気中に伝わってくるようだった。
「すごい……これが、意識の共有……?」