アジトの照明は薄暗く、埃っぽい倉庫の空気が肌にまとわりつく。エリカとミアは、テーブルに並べた複数の端末とモニターを前に、深いため息をついていた。つい先ほど、彼女たちはネット上を徹底的に探索した結果、奇妙なデータの断片を捕捉したのだ。被験者の脳波記録、精神状態の推移、そして「意識共有」らしき実験内容を示唆する専門用語が散りばめられている。
「これ……間違いないわ。防壁やセキュリティシステムとは別次元の研究ね」
エリカはモニターに映し出されたデータの列を指差しながら、唇を引き結ぶ。脳内チップに関係する技術とはわかるが、その用途がただのセキュリティ管理ではないことは明白だった。見たことのないコードネームや、脳波の位相を操作するような記述が混在している。
「こんな情報、どうやって見つけたの?」
ミアが驚いたように画面を覗き込みながら問う。エリカは肩をすくめてみせる。
「偶然よ。ヴァル・セキュリティの裏をかこうとしてネットを徘徊していたら、関連するサーバーからの断片的な流出を引っかけたの。誤作動か、何らかのテスト中だったのかも」
それでも普通なら見つけられない程度の暗号化が施されていたらしく、エリカは相当の時間と集中力を要してようやく断片を解読したのだ。