第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編 第6章: 前編|後編
円卓の上空で、無数の黒い帳簿が螺旋を描きながら積み上がっていく。ページが開くたび、赤字のはずの数字は強引に黒字へ転じ、虚構の資産が増殖する──「支出なき所得」の錬成魔法。
灰色宰相グラディウスは椅子から立ち上がり、仮面を外した。血管のような魔力光が頬を走るその顔は、人間というより計算機の端末に近い。
「王国は赤字を知らぬ。数字は膨らみこそが善だ」
その言葉と共に、円卓の天板がぱかりと割れ、中央に白金の魔力核が姿を現した。核は“幻想資産”で太らされた虚像のバランスシートを燃料に変換し、堂々と光を吐き出している。
残り九分。
私は《エクスセル》を開き、核に接続された数字列を解析。しかし項目は指数関数的に分岐し、手元セルはたちまちバッファオーバーフローで赤く染まった。
(単独演算は不可能。なら、円卓そのものを計算機に置き換える――!)
私は帳簿を円卓へ叩きつけ、ページを扇状に開く。
「ティリア! ページ間に雷矢を!」
「了解!」
雷弧を纏った矢が紙束を貫き、活字インクの鉄分が瞬時に導線化。円卓の木質に数字回路が刻まれて光り出す。