第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編 第6章: 前編|後編 第7章: 前編|後編 第8章: 前編|後編
王都表彰式前日、暁の薄明かりがトリスの街並みを銀色に染める。
荷馬車には桜色チェインメイルを収めた木箱、監査院から届いた正式旅券、それに支部長クラリスが用意した豪華すぎる差し入れ菓子の詰め合わせが積み込まれていた。
「重さは規定内。でも糖分は規定外だね」
私は《エクスセル》で車軸にかかる負荷を計算しつつ、菓子箱の角を確認した。
「王都のお偉方へ“餞(はなむけ)”よ。数字じゃなく甘味で懐柔するの、大事でしょ?」
クラリスが笑い、セルマは猫耳を揺らして早朝の伝票を持って来る。
そこへ駆け込んできたのは新人カミル。腕の包帯は取れ、胸を張る姿はあの日より一回り逞しい。
「ユウトさん! ギルド長から渡してほしいって!」
差し出されたのは小さな革袋――中には磨いた銅貨がぎっしり。「戦利品の分配金だって……王都で困ったら使ってください」
「ありがとう。でも困ったときは数字を動かすさ」
「その数字に、僕もなりたいんです!」
少年の瞳に映る未来へ、心が温かくなる。