赤い封筒 – 第9話

 過去の文集の詩と完全に合致する詩が毎月送られてくる。ミツルの姿を思わせる人物がカメラに映り、尾行もかろうじて成功しかけたが最終的には失敗した。さらに新たに届いた白い封筒に貼られた断片的な詩のコピー――それらが入り乱れ、アキラの心は限界に近づいている。

「先生、大丈夫ですか? 顔色、悪いですよ。少し休まないと……」

「大丈夫。今は休んでなんていられない。早くあの人物を突き止めないと、また事件が起こるかもしれないし……何より、俺自身の不安が消えない。」

 ユキノは言葉を飲み込み、申し訳なさそうに眉を下げる。シンイチもまた、複雑そうな視線をアキラに向けたまま黙り込んだ。誰もが焦りを感じ、しかし確たる手段を掴めないまま時間だけが過ぎていく。そこに差し込んでくるのは、疑念と恐怖と、かすかな希望の欠片。もし次に赤い封筒が届く瞬間をとらえられれば、犯人の正体に迫れるかもしれない――だが、そのときに起こり得る新たな悲劇を想像すると、全身が強張るような戦慄が走る。

 結局、アキラはそのまま事務所を後にし、自宅へ戻ったが、頭の中はどこかぼんやりとしていた。ベッドに横たわっても眠気はまるで湧かず、スマートフォンに保存したミツルの学生時代の写真を何度も見返す。死んだとされる男が生きているのか、それとも違う誰かが巧妙に成り済ましているのか――その答えはまだ闇の中だ。

 眠れぬ夜が更けていく中、アキラの胸には焦燥感だけが煮えたぎっていた。もう「赤い封筒の謎」に振り回されるのは限界に近いと感じながらも、足を止められない。まるでミツルの詩が呼び起こす呪縛のように、追い詰められた日常から抜け出す術を見つけられずにいる。声にならない絶叫が自分を責め立て、さらに深い夜の底へと誘っていた。

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