和菓子の灯がともるとき – 12月31日 後編

12月26日 前編後編 12月27日 前編後編 12月28日 前編後編
12月29日 前編後編 12月30日 前編後編 12月30日 前編|後編

夜になると、亮が借りたという小さなコミュニティカフェに向かうため、由香と母は出来立ての和菓子を箱に詰めて準備を整える。父も「短時間なら行ってみたい」と言うので、体力を考えながら迎えの車を出すことになった。車中で父は窓の外を眺めながら、「何年ぶりだろうな。大晦日に外へ出かけるなんて、倒れてからは一度もなかった」と感慨深げに言う。母が「でも無理はしないでね。ちょっと顔を出したら、すぐ休むんだから」と念を押すと、父は「分かってるよ」と嬉しそうに答えた。

目的のコミュニティカフェに着くと、すでに若者を中心に数人が集まっていて、コーヒーの香りや軽快な音楽が店内にあふれていた。奥のテーブルでは手作りのスープが振る舞われ、地域の年配の人たちも椅子に腰かけてそれを飲んでいる。そこへ由香たちが作った和菓子の箱を運び込むと、一斉に「わあ、和菓子だ!」と歓声が上がった。中には由香の顔を見て「あれ、夏目堂さん?」と驚きの声を上げる人もいて、「久しぶり! 店はどうなってるの?」と懐かしそうに話しかけてくる。父がそっと顔を見せたときには、「おじさん、大丈夫だったんですね! 待ってたよ!」と喜びの言葉が飛び交い、洋一は目を潤ませて「ありがとうな、本当に」と小さく頭を下げた。

由香と母がテーブルに和菓子を並べると、予想以上にたくさんの人が集まり、次々に手に取って味わってくれる。「懐かしい味がする」「上品な甘さでおいしい」「やっぱり和菓子って落ち着くね」――そんな声を聞くたび、由香の胸はいっぱいになる。父もほんの少しだけ、テーブルの端に座って人々と会話を交わす姿が見られた。長い入院生活で気力が削がれてしまったかと思いきや、こうしてお客さんの前に出て言葉を交わすうちに、彼の中にあった職人魂が再び灯り始めているのだと感じる。

タイトルとURLをコピーしました