和菓子の灯がともるとき – 12月31日 後編

やがてテレビの年越し番組がクライマックスに近づき、みんなが画面を見ながら「もうすぐだ!」と盛り上がる。既存のカウントダウンイベントは中止になってしまったが、ここではささやかながらも温かな空気が漂っていた。由香は母と顔を見合わせ、「お父さんが退院できて、本当に最高の年越しだね」と笑い合う。母は「そうね。店を継続するかどうか、まだ先行きはわからないけど、今はただ…一緒に年越しができることに感謝したいわ」と答えた。

零時が迫ると、人々がカウントダウンの声をそろえる。テレビの画面の数字が切り替わり、ついに年が明けた瞬間、カフェの中は拍手と歓声に包まれた。亮は照れくさそうに「やったね、成功だ」とつぶやきながら、由香のほうを向いて笑う。「来年はもっと大きな形で町を盛り上げたいな」と目を輝かせる彼の姿に、由香は素直に応援したい気持ちを抱く。一方で、自分もまたいずれ東京へ戻らなければならない事実がある。会社からの仕事やキャリアのことを考えると、そう簡単に地元に腰を据えてすべてに参加できるわけではない。だが、こうして地元の人たちと触れ合い、父が笑顔で和菓子の話をしている様子を見ると、この町でもまだ自分にやれることがあるのではないかと思うのだ。

和菓子をほおばりながら、久しぶりに「夏目堂の味」を思い出したという年配の客が「早く店を再開してくれないかな」とこぼすのを聞き、由香は複雑な心境を抱きながらも、その言葉を素直に受け止める。父が元気になりさえすれば、店は再び光を取り戻せるかもしれない。そこに、母の力、そして自分の力や亮のアイデアが加われば、新しい形で地域に貢献できるのではないだろうか――そんな期待が、年が明けたばかりの夜に静かに広がっていく。

大晦日の夜がゆっくりと新年へと切り替わり、人々が「明けましておめでとう!」と笑い合い、温かな言葉を交わすなか、由香は父と母の元へ戻り、「ちょっと疲れた?」と声をかける。父は「いや、何年かぶりにこんなに人と話したから、むしろ元気になった気がする」と言い、母は「明日はおせちをちゃんと食べましょうね。せっかく用意したんだから」と朗らかに続ける。イベントという小さな挑戦を乗り越えた家族の姿は、一歩ずつではあるが、確かな前進を感じさせていた。

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