第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編
王国会計評議会の本会議場――ドーム天井に黄金の天秤が描かれ、半円形の傍聴席が二段で取り巻く。その中央に据えられた暗紅色の円卓は、まだ燭台さえ点(とも)っていないのに薄く熱気を帯びていた。
午前九時三十分。議事開始まで残り三十分。
私たち〈日替わり定食隊〉とマリエル監査官、そして負傷を押して付いて来たクラリス支部長は、地下動線を抜けた直後の警備室で入念な最終チェックを受けていた。
――腕章の魔力認証、完了しました。
水晶球の声が無機質に告げ、私の袖に巻かれた《臨時監査補佐官》の赤い布がほの青く発光する。
「これで公式に“入廷資格”は整ったわ。あとは円卓へ書類を提出するだけ」
マリエルが眼鏡越しに静かに頷いた。
だが空気は、何かがこびりついたような重さを纏っていた。
大理石の壁に埋め込まれた魔力導管――通常なら監査院の結界を司る淡い流光が走るはずだ。今はくすんだ鉛色で、どこか淀んで見える。
「監査院上層の結界が部分的にねじ曲げられている。第四課本隊の工作ね」
リリィが携帯測定器の水晶を指で叩き、魔力量の揺らぎを示したグラフを示す。ピークが波打つたび、嫌な胸騒ぎが高まる。
「影衛兵より強いのが相手だってことか?」
ガルドが拳を鳴らす。
マリエルは首を横に振った。