第1章: 前編|後編 第2章: 前編|後編 第3章: 前編|後編 第4章: 前編|後編
第5章: 前編|後編
黄金の両開き扉を目前にして、床一面を覆う銀灰の小判がざわりと震えた。
残り二十四分。コインの表面を走る数字が脈動し、回廊全体に寒気混じりの魔力が滲み出す。
――再構成フェーズを検知。
《エクスセル》のセルが自動で赤転し、鍵となる定数が次々書き換わった。魔装部隊〈アカウンティング・ナイト〉は一人倒れても、残った「予備費」と「特別予算」で即時リペアするらしい。
「再投資で陣を組み直してる……資金プールは潤沢ってわけか」
私はセルの資金残高を睨みつつ舌打ちした。
歪む空間から、夜色のタキシードをまとった三人の男が現れる。額には“Σ(シグマ)”の刻印。
「支払義務を果たしてもらおうか、臨時補佐官殿」
中央の男が爪弾く指先から、決算書の束が紙吹雪のように舞う。その数字列が組み上がるたび――
カラン、と硬貨の雨。それらは瞬時に刃と盾へ変貌し、私たちを包囲した。
「ティリア、上段右45度に結節点!」
「了解!」
彼女の矢が音速に乗り、紙吹雪に風穴を開ける。だが次の瞬間、〈シグマ〉は既に別の式で穴を埋めていた。
「経常黒字は埋めても埋めても増えるのさ」
嫌味な笑み。
私は深く息を吸い、帳簿を開いた。