異世界冒険者ギルドの日常 – 第8章:後編

 式後のパレードでは、市民が投げる紙花が桜色チェインメイルに降り積もった。

 「ユウト!」

 ティリアが人混みの中で立ち止まり、頬を紅潮させて小さな包みを差し出した。

 「これ、スピーチのお礼……矢羽根の耳栓。夜中にデータ整理する時、静かに集中できるでしょ」

 「ありがとう。じゃあ僕からは――」

 私が差し出したのは、携帯計算石に彫った小さな弓のシンボル。ティリアは耳まで真っ赤にしてうなずくと、人混みに紛れてしまった。

 夜。王都の空に花火が上がる。宿の窓からそれを眺めながら、私は日報帳に今日の行を記した。

 《クレーム0 笑顔?(桁あふれ) 未来への繰越:∞ではなく有限大》

 数字は終わりがある。けれど笑顔の数は、また明日増資できる。

 窓口係の戦いは続く──けれど今夜だけは最高益。

 私はペンを置き、仲間の笑い声が響く食堂へ向かった。

第1章: 前編後編 第2章: 前編後編 第3章: 前編後編 第4章: 前編後編
第5章: 前編後編 第6章: 前編後編 第7章: 前編後編 第8章: 前編|後編

タイトルとURLをコピーしました