異世界冒険者ギルドの日常 – 第10章:前編

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――「世界樹、支払期日迫る」

 祭り当日の夜明け前、セレシアの中心広場は仮設祭壇を囲むように光の結界で覆われていた。

 円錐形の祭壇頂部には世界樹の若枝が据えられ、その根本で黄金の水晶炉が脈動している。前夜、湖底錬金炉を止めたはずの偽通貨魔力が、どこかから再注入されていた。

 「計算上、あと三時間で炉心が閾値に達する」

 私は臨時管制テントに設置された巨大計算石へ《エクスセル》を連携し、魔力総量グラフをスクロールした。見覚えのある異常波形――桁あふれを発端とする指数状増加が再び、祭壇直下で進行している。

 ティリアが矢羽根を撫でながら眉を寄せる。

 「湖底を止めても根から上がってきた……世界樹そのものを乗っ取られてるなら厄介よ」

 「幹への魔力回路を封鎖するしかない」

 リリィは歯車ペンで祭壇断面図を描き、赤く×印を付けた。

 「炉心を囲む六本の根管を同時に閉じれば擬似的に“支払停止”になる。でも秒単位で連動しないと逆流して爆発」

 私がセルにタイマー式マクロを設定すると、ガルドは腕まくりして豪快に笑った。

 「六方向同時にぶった切る? 任せろ!」

 「切るんじゃなく“弁を回す”ほうが安全」

 リリィが即座に工具袋を掲げ、ティリアは矢筒を軽く叩いて賛意を示す。