異世界冒険者ギルドの日常 – 第11章:後編

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 北上する街道が松の黒影に沈む頃、霧雨は白い粉雪へ変わりはじめた。

 馬車の幌を打つ粒音が硬くなり、呼気が薄く鋭くなる。リリィは車内でポータブル炉を起動し、歯車式ヒーターを稼働させた。

 「燃料は魔力結晶二欠片、十分もてば御の字ね」

 ティリアは窓の霜を指でこすりながら呟く。

 「浮遊式の補給倉が見えない。開拓地手前にあるはずよ」

 予定表には街道沿いに三つの物資ロッジが記載されていた。だが最初のロッジ跡は焼けた木枠と空の木箱だけが残り、帳簿と照合した在庫欄は軒並み「ゼロ/空白」と表示された。

 ユウトは《エクスセル》でロッジ周辺の雪面をスキャンし、熱量センサーで“消えた物資”の痕跡を逆算。

 「重量移動の跡がない。ここから物は運び出されずに蒸発した」

 ガルドが雪を掴み嗅ぎ取った。

 「焼け跡に魔力の焦げ臭。魂送りの香料と似てる」

 リリィは工具を取り出し、木箱に残る印字を削って薬品を垂らす。

 浮かび上がった文字列は〈Free Blank Receipt—Ω〉。

 「空白領収書を燃やすと在庫が“負”へ振替、帳簿から消えるカラクリね」

 ティリアが矢で木箱の灰を払った。

 「火元を止めない限り備蓄は底が抜けた樽よ」