和菓子の灯がともるとき – 01月01日 前編

後ろから声をかけられ、振り向くとそこには亮が立っていた。少し気まずくなった日もあったが、大晦日のイベントを成功させて、今はどことなく互いにわだかまりが解けたように感じる。母が「あら、亮くん。おはよう。早いのね」と笑うと、亮は「おばさんたちが来るんじゃないかと思って」と照れ隠しのように頭をかく。父も「昨日は本当にありがとう。おかげでいい年越しができたよ」と頭を下げ、亮は「いえいえ、僕こそ夏目堂の和菓子がなかったら成り立たなかったイベントですから」と笑顔を返した。

三人と合流した亮とともに境内を進むうち、町のいろいろな人々と顔を合わせる。誰もが「夏目堂の和菓子、久しぶりに食べられて嬉しかった」「早くお店を再開してほしいなあ」と言ってくれる。中には父の肩を叩いて「身体、もう大丈夫なのかい? 無理はするなよ」と気遣う人もいて、「はい、ぼちぼちやっていきますよ」と父が頭を下げる姿を見ていると、由香は自然と笑みがこぼれた。やはりこの場所で育った父の存在は大きく、店が持つ地域への存在感も再認識させられる。

一行が拝殿の前に並ぶと、父が「俺はゆっくり行くから、先に手を清めてきていいぞ」と由香と母を促す。母と一緒に手水舎で手を清めていると、由香は横目で父の様子を確かめる。父は少しよろけたようにも見えたが、隣に亮が支えるように立っており、二人で軽く談笑をしている。昨年末まで入院していたとは思えないほど、父は人との触れ合いを楽しんでいるように見えた。母が小声で「あなたが戻ってきてから、いろいろ変わった気がする」と話しかけ、由香は「私よりも、お父さんの回復力がすごいだけだよ」と遠慮がちに答える。

拝殿の前に立ち、賽銭を入れて二礼二拍手一礼を行う。由香はふと、今回の初詣で何を祈るのかを考えていた。これまでは勉強や仕事の成功など、自分のことばかりを願ってきた気がする。しかし今、目を閉じた彼女の頭に真っ先に浮かんだのは「お父さんがもっと元気になりますように」という切実な思いだった。以前は、父とのすれ違いや都会への憧れ、忙しさを理由に連絡を疎かにしてきた自分もいた。それが今、父の存在そのものに感謝し、無事を願う自分に少しだけ驚く。そして、その変化がなんとも自然に感じられた。

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