大空の船 – 第8章 後編

第1章:前編後編 第2章:前編後編 第3章:前編後編
第4章:前編後編 第5章:前編後編 第6章:前編後編
第7章:前編後編 第8章:前編|後編

分厚い雲を裂くようにしてアルバトロスが進む先、見張りのライナスが望遠鏡を握りしめ、息を呑んだ。視界の向こう、雲海の底からそびえ立つ巨大な飛行要塞のようなシルエットが、低い夕焼けの光を受けて不気味に浮かび上がっている。鋼鉄の壁面と無数の砲台、そして周辺を巡回する小型の武装艇――見間違いようもない。紅蓮のガイウスが築いた「空賊の砦」が、ついに姿を現したのだ。

「アレン、見つけたぜ。あれが連中の本拠地なんじゃないか? こいつは想像以上にでかい……」

ライナスが歯がみするように言うと、アレンは舵を握るラウルに「少し高度を落として、雲の陰に隠れよう。これ以上近づけば、こっちが先に見つかる」と指示を出す。ラウルは短く答え、船を巧みに操縦して厚みのある雲の層へ紛れ込ませる。エンジン出力を落とし、静音飛行に近い形で砦の動向を探る狙いだ。

甲板ではリタが機関を調整しながら苦い顔をしている。

「ここまで修理して強化もしたけど、あれだけの砲台を相手にするには装甲も火力もまるで足りないわ。どうやら正面突破は無茶ね」

彼女の言う通り、数十におよぶ砲門が並ぶ要塞は、まるで空を統べる城郭のように圧倒的な威圧感を放っている。もし下手に近づけば砲弾の雨を浴び、数分と持たずに撃沈されるだろう。かつて小型の空賊船に襲われて必死に逃げ延びた記憶が、アレンたちの脳裏に蘇る。

「紅蓮のガイウスがいるかどうかはわからないが、あの規模からしてかなりの戦力が集結しているはずだ」

ラウルが操縦席から話しかける。視線は前方に固定したままだが、声には緊張がにじんでいる。軍にいた過去を持つラウルでさえ、この状況を危険と断じないわけにはいかない。

アレンは甲板の端に身を寄せ、極力視認されない角度をキープしながら砦を観察する。船体下部には何層にもおよぶ鋼鉄の板が重なり、いくつもの小型艇が周囲をパトロールしているのが見える。その動きは統率が取れており、完全に要塞化した空賊の砦と言えそうだ。

タイトルとURLをコピーしました