大空の船 – 第7章 後編

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風が静かに凪いだかと思えば、再び強い気流が渦を巻いて吹き荒れ、アルバトロスの甲板を大きく揺さぶる。高空域へと踏み込み、多くの雲を抜けた先で、クルーたちはあの“巨大飛翔生物”との再会を予感していた。前回は雲の合間から姿を垣間見ただけで去ってしまった生物。だが、その圧倒的な存在感が脳裏に刻まれ、アレンたちの胸を不思議な期待と緊張が満たしている。

「今回はもっとはっきり接触できるかもしれないわね」

リタが甲板に設置した簡易観測装置を見ながら言う。彼女は先日、あの生物が放っていた低い振動波を記録しようと試みたが、装置の性能が追いつかず、詳しいデータを得られなかった。しかし、古代都市で得た知識を応用し、新たに調整した機器があれば、今度はあの謎の振動をある程度“読み取る”ことができるかもしれない。

「ま、そもそも相手が姿を見せてくれなきゃ話にならないがな」

ラウルは操縦席で苦笑する。彼の手は緊張を隠すように操縦輪をしっかりと握り、いつでも回避行動をとれるように注意を払っている。あの巨体を目の当たりにした以上、敵意を持たれれば簡単に船ごと呑み込まれてしまうだろう。だが、なぜかラウルの胸にはそこまでの恐怖はない。むしろ、人を超えた圧倒的な“空の主”と邂逅できるかもしれないという、不思議な敬意にも似た感覚があった。

「アレン、そっちはどうだ?」

ライナスが舳先で望遠鏡を覗きながらアレンに問いかける。アレンは風向計と気圧計をチェックしながら答えた。

「ここ数分で気圧が急に落ちてる。乱気流の境目があるのかもしれない。周囲に妙なうねりを感じるな……」

その言葉にリタも感覚を研ぎ澄まし、「あの生物が近づくと、空気の流れが変化するのかもしれないわ」と頷く。前に遭遇したときも、周囲の雲が異様なほど乱れ、突風が吹き荒れたからだ。