大空の船 – 最終章 前編

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雲を裂く冷たい風が、アルバトロスの船体を容赦なく揺さぶっていた。砲撃の残響が空気を震わせ、甲板には砕け散った木片が散乱している。今しがた交戦をかわした空賊の巡回艇が、要塞の方向へ引き返すのがぼんやりと見えた。嵐の前兆のような空模様と、空賊要塞の遠くから響く金属音――この不吉な空気に、クルーたちの心が張り詰めていく。

「アレン、エンジンの状態は大丈夫だけど、外板に新しい被弾痕があるみたい。修理するには時間が要るわ」

リタが工具ベルトを腰に巻いたまま、急ぎ足で甲板を横切る。少し前の追撃戦で砲弾こそ直撃を免れたが、飛んできた破片や衝撃が船のあちこちを痛めつけていた。アレンは操縦席に立ったまま歯がゆい表情を浮かべ、遠くの要塞の方角をにらみつけるように見つめる。

「今は応急処置で我慢するしかない。要塞の砲台がこちらに集中砲火を浴びせる前に、突入経路を探らないと」

言葉の調子は強いが、その瞳には不安が宿っていた。ラウルが操縦輪に手をかけて、アレンの気迫を受け止めるかのように頷く。

「要塞に攻め込むなんて、正気の沙汰じゃないぜ。だが、これ以上紅蓮のガイウスに好き勝手させたら、空の暮らしは滅茶苦茶になる。どこかでケリをつけねえとな」

ライナスが甲板の片隅でひび割れた木片を片付けながら渋い声でつぶやく。これまで何度も逃げ延びてきたが、目の前に立ちはだかる大きすぎる障壁を前にしては、勝算があるとは言い難い。だが、空の仲間たちから集めた情報によれば、今まさに紅蓮のガイウスが決定的な行動を起こす兆しがあるらしい。

「突入するにしても、正面の砲台を突破できるわけじゃない。どこかに弱点があるはずよ」