大空の船 – 第8章 前編

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灰色がかった夕陽が空を染め、アルバトロスの甲板を赤茶色に照らし始めるころ、アレンは操縦席のそばで胸騒ぎを覚えていた。高空で出会った天空龍や古代都市での経験を経て、船の性能は向上したはずだ。しかし、不安の影はどこか遠くから忍び寄るかのように、意識の片隅で膨らんでいる。空に棲む謎の生物以上に、人の欲望から生まれる脅威――特に紅蓮のガイウス率いる空賊――が再び姿を見せるのではないか、と漠然とした警戒感を拭いきれなかった。

「アレン、ここ最近はわりと静かよね。どこかの浮遊島に寄って情報を仕入れるのもいいかもしれないわ」

リタがエンジンの調律を済ませて甲板に上がってくる。彼女は工具ベルトを片手に持ち、船内での作業をひととおり終えたようだ。

「そうだな。食料の補給もそろそろしたいし、船の外板を点検してくれる職人がいれば助かる。ちょうど大きめの集落があるってライナスが言ってたな」

アレンは甲板の端でコンパスを見つめながら応じる。先ほどから雲の流れがいやに速く、風向きも刻々と変わっている。何かの前触れか、と妙な胸のざわつきが増していく。

船尾へ回ってみると、ラウルが大工道具を広げて甲板の継ぎ目を確認していた。彼は元軍人らしからぬ器用さを持ち合わせており、アルバトロスの細かな修繕にも積極的に取り組んでいる。だが、その表情には普段以上の警戒心が透けて見える。

「おい、ラウル。やけに念入りだな」

アレンが声をかけると、ラウルはわずかに眉を寄せて言った。

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