和菓子の灯がともるとき – 01月02日 後編

都会の仕事は確かにやりがいがあり、これまで頑張ってきた成果もある。それを手放すには大きな決意が必要だし、成功が約束されるわけでもない店の再生に人生を注ぎ込むのはリスクが高い。しかし、この店で育ち、父が作る和菓子に誇りを持っていた自分が、ここにいるのもまた事実――そう思い始めると、胸がざわざわと落ち着かなくなる。

店の外では少しずつ夕闇が降りてきて、カウンターの上のレシピノートにも影が伸びる。由香はそっとノートを閉じ、心の中で言い聞かせるようにつぶやいた。「どうすればいいんだろう……」。父母の意向、都会の上司からの連絡、亮の新しいプロジェクト、そして昔からの思い出が詰まった店。選択を迫られているのは明らかだが、答えを出すのは簡単ではない。スマホを再度手に取るが、上司への返信を打とうとする指先は重く、なかなか動かない。

こうして、年明け早々、由香は人生の大きな分かれ道に立たされていた。父が書き残した言葉が胸に刺さる一方で、自分が積み上げてきたキャリアをあっさり投げ出していいものかという迷いも大きい。カウンターに肘をつきながら、由香は店の天井を見上げる。幼い頃、父におんぶされて見た景色が、何かの答えを与えてくれればいいのに――そう思いつつも、すぐに答えは浮かんでこない。店のシャッターは閉められ、夜の静けさがゆっくりと街を包み込もうとしていた。

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