和菓子の灯がともるとき – 01月03日 後編

発車のアナウンスが流れ、新幹線がゆっくりと動き始める。窓の外には、遠ざかっていく故郷の町並み。由香はしっかりとその風景を目に焼き付けようと、最後まで視線を離さない。ちょうどそのとき、頭の中に浮かぶのは母と父が店の前で見送ってくれる姿だ。二人が笑顔で手を振っているように思えて、「きっと大丈夫」と心強くなった。

やがて車窓の景色が変わり、さまざまな建物が流れていく。冬の光が少しずつ傾き始め、窓を黄金色に染めていた。由香は小さく息を吐き、ノートのコピーを閉じると、そっとカバンにしまう。まるでこれから始まる二拠点生活への決意を確認するかのように、胸の奥で熱くなった思いを確かめた。

「私も、人を笑顔にできることをやりたい」――そう小さくつぶやいた言葉が自分に返ってきて、自然と微笑みがこぼれる。いつか本当に店を完全に再開できたら、父と母が元気で和菓子を作っている光景を、亮と一緒に盛り上げることができたら、そしてそれを都会と地元を行き来しながら見届けられたら、どんなに素敵だろう。これから先の道は決して平坦ではないが、由香は自身の中に芽生えた強い意志を信じてみようと思った。

新年の柔らかな光が車内に差し込み、窓ガラスをきらきらと反射している。由香は一つ深呼吸をして顔を上げた。その先には、これまでと違う生き方の可能性がきっと広がっている。父の意外な決断が家族を結び直し、地元への愛着が新たな未来を切り開いていく――そう確信できるほどに、由香の心は穏やかな期待で満たされていた。

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